2026年8月1日施行―産業医の辞任等の報告義務化と50人以上事業場の注意点
はじめに
労務管理では、従業員数によって会社が対応しなければならない事項が変わることがあります。
例えば、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任、衛生管理者の選任、衛生委員会の設置等の対応が必要になります。
当事務所でも、従業員数が50人以上になった会社から、安全衛生管理体制に関するご相談を受けることがあります。
そして産業医に関して注意したいのは、「選任すれば終わり」というわけではないという点です。
産業医を選任した後も、労働基準監督署への報告、衛生委員会との関係、健康診断後の意見聴取、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック後の対応等、気を付けるべき事項は複数あります。
さらに、2026年8月1日からは、産業医を選任した場合だけでなく、産業医が辞任、解任又は退任した場合にも報告が必要となります。
今回は、産業医の辞任等に関する報告義務化を踏まえ、常時50人以上の労働者を使用する事業場が確認しておきたい安全衛生管理上のポイントを取り上げます。
常時50人以上の事業場では、安全衛生管理体制の整備が必要
従業員数が50人以上になると、労務管理上、整備すべき体制や対応事項が増えます。
その一つが、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制の整備です。
例えば、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が必要となります。
なお、50人以上とは、会社全体の人数だけで考えるのではなく、原則として事業場単位で確認する必要があります。
そのため、本社、支店、店舗、営業所等が複数ある場合には、それぞれの事業場ごとに、常時使用する労働者数を確認しなければなりません。
また、50人以上の事業場では、産業医だけでなく、衛生管理者の選任、衛生委員会の設置等も問題になります。
従業員数が増えてきた会社では、人数の増加に伴い、法令上求められる管理体制も変わることを意識しておく必要があります。
産業医は「選任して終わり」ではない
産業医に関しては、50人を超えたら産業医を選任しなければならないという点に意識が向きがちです。
もちろん産業医を選任すること自体は重要です。しかし、実務上は、産業医を選任した後の管理が曖昧になっているケースもあります。
例えば、次のような点です。
・産業医の選任報告を行っているか
・産業医との契約内容や委嘱内容が明確になっているか
・衛生委員会に産業医がどのように関与するか
・健康診断後の医師意見聴取をどのように行うか
・長時間労働者への面接指導の体制を整えているか
・ストレスチェック後の面接指導や職場環境改善と連動しているか
当然ですが、産業医については、単に選任手続を行えば足りるというものではありません
労働者の健康管理や職場環境の改善に関わる重要な役割を担うため、会社にとっても、産業医を安全衛生管理体制の中でどのように位置づけるかということは重要です。
2026年8月1日から、産業医の辞任等も報告対象に
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任した場合、所轄労働基準監督署長へ報告する必要があります。
そして2026年8月1日施行の改正労働安全衛生規則により、この報告の対象に、産業医の辞任、解任又は退任が加わります。
具体的には、産業医の辞任、解任又は退任があった場合には、当該産業医の氏名、辞任等の年月日等を、所轄労働基準監督署長へ遅滞なく報告することが必要となります。
つまり、今後は、産業医を選任したときだけでなく、産業医が交代した場合にも、会社として報告の手続を行う必要があります。
なお、後任の産業医の選任報告を行う際に、前任者の辞任等に関する事項をあわせて報告した場合には、別途、辞任等の報告を行う必要はないとされています。
産業医が交代する場合に確認したいこと
産業医が交代する場面では、単に新たな産業医を探すという対応だけでは足りません。
例えば、次のような点を確認しておく必要があります。
・前任の産業医の辞任、解任等の年月日
・後任の産業医の選任時期
・所轄労働基準監督署長への報告が必要となるか
・後任の産業医の選任報告とあわせて、前任者の辞任等を報告できるか
・健康診断後の意見聴取、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック後の対応に空白が生じないか
・産業医との契約書や委嘱状を見直す必要がないか
特に注意したいのは、産業医の交代により、会社の安全衛生管理体制に空白期間を生じさせないようにすることです。
労働安全衛生規則では、産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任することとされています。また、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したときは、その旨及びその理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならないとされています。
そのため、産業医の辞任、解任等があった場合には、後任者の選任、労働基準監督署への報告、衛生委員会等への報告、産業医業務の引継ぎ等に関しても確認しておくことが重要です。
50人前後の会社で起こりやすいこと
従業員数が50人前後の会社では、労働時間管理、休職対応、ハラスメント対応等に追われ、安全衛生管理体制の整備が後回しになることがあります。
しかし、50人以上の事業場になると、会社に求められる対応項目は明確に増えます。
産業医の選任、衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施等は、会社の規模が大きくなるにつれて避けて通れない事項です。
また、これらは単独で存在しているものではありません。
長時間労働者への面接指導、メンタルヘルス不調者への対応、休職・復職対応、健康診断後の就業上の措置等の日々の労務管理とも密接に関係します。
従業員数が50人を超えてから慌てて対応するのではなく、段階的に安全衛生管理体制を構築することが望ましいと言えます。
おわりに
2026年8月1日から、産業医の辞任、解任又は退任があった場合にも、報告が必要となります。
今回の改正は、産業医の選任義務がある事業場において、産業医の変更や退任の状況を適切に把握するためのものと言えます。
ただし、実務上重要なのは、単に報告義務が増えたという点だけではありません。
産業医は、50人以上の事業場における安全衛生管理体制の中心的な存在の一つです。
産業医の選任、交代、衛生委員会との関係、ストレスチェックや長時間労働者対応との連携を含めて、会社として管理体制を確認しておく必要があります。
従業員数が50人前後となった会社では、産業医の選任だけでなく、安全衛生管理体制全体を見直すタイミングです。
当事務所では、労務管理、就業規則整備、休職・復職対応、安全衛生管理体制に関するご相談をお受けしています。
従業員数の増加に伴い、産業医の選任や衛生委員会、ストレスチェック等の対応に不安がある場合には、お早めにご相談ください。
【参考】
厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」
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