コロナ特例の再来?2027年1月から始まる標準報酬月額の「特例改定」とは
新たな特例
2027年1月から、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額について、新たな特例的な取扱いが始まります。
療養・育児・介護と仕事を両立するため、本人と職場の合意のもとで勤務時間の短縮や時間外労働の抑制等の「就労調整」を行い、その結果として報酬が大きく減少した場合、一定の要件を満たせば、通常の随時改定を待たずに標準報酬月額を見直すことができる仕組みです。
厚生労働省が2026年7月31日に発出した通知では、この取扱いを2027年1月1日から適用するとしています。健康保険法・厚生年金保険法に基づく標準報酬月額の保険者算定の特例として設けられるもので、通常の随時改定とは別の取扱いです。
社会保険実務に携わったことがある方は、新型コロナウイルス感染症の影響による休業時に設けられた「標準報酬月額の特例改定」を想起するかもしれません。
今回は、2027年から始まる新たな特例について、通常の随時改定や既存の標準報酬月額の決定・改定方法、コロナ禍の特例との違いを踏まえながら整理します。
標準報酬月額の決め方は、もともと一つではない
健康保険・厚生年金保険では、保険料等の計算の基礎として「標準報酬月額」が用いられます。
標準報酬月額については、入社時等の「資格取得時決定」、毎年原則として4月から6月までの報酬を基に行う「定時決定」、昇給・降給等によって報酬が大きく変動した場合の「随時改定」が基本的な仕組みです。
ただし、標準報酬月額の決定・改定方法はこれだけではありません。
通常の方法によって報酬月額を算定することが困難な場合や、その方法によることが著しく不当となる場合には、「保険者決定(保険者算定)」が行われることがあります。
例えば、定時決定では、病気や欠勤により4月から6月まで報酬をまったく受けない場合等、通常の方法で報酬月額を算定することが困難な場合があります。また、一定の要件を満たす場合には、年間平均により標準報酬月額を算定する取扱いもあります。
随時改定についても、固定的賃金の変動により通常の随時改定に該当する場合であって、業務の性質上、繁忙期に非固定的賃金が著しく増えることが例年見込まれる場合等には、一定の要件のもとで年間平均による保険者算定を申し立てる取扱いがあります。
さらに、産前産後休業や育児休業等の終了後には、通常の随時改定に該当しなくても、本人の申出により標準報酬月額を見直す仕組みもあります。
今回の新たな特例も、こうした複数の決定・改定方法の中に、新しく加わる取扱いと位置付けることができます。
2027年からの特例改定とは
通常の随時改定では、昇給・降給等による固定的賃金の変動があり、変動月以後3か月の報酬平均による標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に原則2等級以上の差が生じる等、一定の要件を満たした場合に、4か月目から標準報酬月額が改定されます。
一方、2027年からの特例では、療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整によって報酬が急減し、急減後の報酬を基にした標準報酬月額が従前より2等級以上低下すること、その状態が3か月以上続くことがあらかじめ見込まれること、本人が特例による改定について書面で同意していること等の要件を満たした場合、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、報酬減となった初月の報酬を基に、翌月から標準報酬月額を改定できます。
例えば、2027年1月から、治療との両立のために本人と会社が合意して勤務時間を短縮し、1月の報酬の総額を基にした標準報酬月額が従前の標準報酬月額に比べて2等級以上低下する場合には、3か月以上その状態が続くことがあらかじめ見込まれること等の要件を満たせば、2月から標準報酬月額を改定できることになります。
厚生労働省は、この仕組みについて、療養等と仕事の両立を支援する観点から、通常の随時改定を待たず、より速やかに現状に適合した標準報酬月額へ改定できるようにするものと説明しています。
対象となる「育児」は学校就学の始期に達するまでの子の養育、「介護」は要介護認定または要支援認定を受けている家族の介護とされています。
そして「療養」には、本人の治療だけでなく、家族の治療等に伴って本人が看護等の必要な対応をする場合も含まれます。
コロナ禍の「特例改定」とよく似ている
今回の仕組みは、コロナ禍に実施された標準報酬月額の特例改定とよく似ています。
コロナ禍では、新型コロナウイルス感染症の影響による休業で報酬が著しく低下した人について、通常の随時改定によらず、報酬が著しく下がった月の翌月から標準報酬月額を改定できる特例措置が設けられていました。
今回の特例も、3か月の経過を待たずに改定できる、報酬減少月の翌月から改定できる、固定的賃金の変動を問わない、原則2等級以上の低下を要件とする、本人の同意を求めるという点で、コロナ禍の特例改定を想起させる仕組みです。
もちろん、コロナ禍の特例改定は感染症拡大という特殊な状況への臨時的措置でした。一方、今回の特例は療養・育児・介護と仕事の両立支援を目的としています。
背景は異なりますが、「実際の報酬が急減しているのに、通常の随時改定では標準報酬月額の変更まで時間がかかる」という問題を、1か月の報酬を使った早期改定によって補うという点には共通性があります。
産前産後休業・育児休業終了時の改定との違い
出産・育児については、すでに「産前産後休業終了時改定」、「育児休業等終了時改定」という仕組みがあります。
これらは、一定の要件を満たした場合、休業終了後3か月の報酬平均を基に4か月目から標準報酬月額を改定するもので、通常の随時改定に該当しなくても利用できます。
また、従前の標準報酬月額との間に1等級以上の差があれば対象となります。育児休業等終了時改定については、育児休業等終了日に3歳未満の子を養育していることも要件です。
これに対して今回の特例は、育児休業からの復帰そのものを要件とするものではありません。
育児を含む療養・介護との両立のために就労調整を行い、報酬が急減したことが出発点となります。また、3か月の実績ではなく報酬減少初月の1か月を基に翌月から改定する一方、原則として2等級以上の低下が必要です。
既存の産前産後休業・育児休業終了時改定がなくなるわけではなく、標準報酬月額の見直しに関する取扱いがさらに一つ加わることになります。
両立支援に繋がる一方、実務上の確認事項は増える
今回の特例は、療養・育児・介護との両立によって給与が大きく減った人について、標準報酬月額を早期に実態へ近づけられる点で、両立支援に繋がる制度です。
一方、企業の社会保険実務では注意も必要です。
随時改定の確認方法は、会社や給与システムによって異なりますが、固定的賃金に変動があった人を起点として随時改定の可能性を確認している会社では、新たな特例を意識した確認が必要になります。
今回の特例では、固定的賃金が変わっていなくても対象となり得るからです。
また、非固定的賃金が大幅に減少している場合でも、その理由が単に業務量の減少によるものなのか、治療との両立のため会社との合意により勤務時間や業務量を調整しているものなのかによって、扱いは異なります。
そのため、報酬の大幅な低下を把握するとともに、その背景に療養・育児・介護との両立のための就労調整がないかを確認できるようにしておくことが重要になります。
人事担当者が把握している働き方の情報と、給与・社会保険担当者が把握している報酬額の情報を関連付ける必要があり、給与計算や社会保険手続きを外部委託している場合には、情報共有の方法についても確認しておく必要があるでしょう。
本人への説明と、特例改定後の管理も必要
今回の特例では、本人の書面による同意が必要です。
標準報酬月額が下がれば保険料負担にも影響しますが、同時に、将来の年金給付が減少することや、傷病手当金・出産手当金に影響が生じることについて十分に説明したうえで同意を得ることが求められています。
また、事業主には、出勤簿や賃金台帳、療養等の事実を確認できる資料等、
届出内容が事実であることを確認できる書類を届出日から2年間保存することも求められます。
さらに、一度特例改定を行えば終わりではありません。
就労調整が終了・縮小して報酬が増加し、特例改定後の標準報酬月額より2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、速やかに届出を行い、報酬増となった初月の報酬を基に標準報酬月額を改定する取扱いとなっています。
通常の随時改定や定時決定についても、別途確認が必要です。
制度を知るだけでなく、社内の確認方法も見直しを
2027年1月から始まる標準報酬月額の特例は、療養・育児・介護と仕事を両立する人の社会保険上の負担を、実際の報酬により早く合わせるための仕組みです。
一方、標準報酬月額については、定時決定・随時改定のほか、保険者算定、産前産後休業終了時改定、育児休業等終了時改定といった複数の仕組みがあります。
そこへ今回、新たな特例が加わります。
企業としては、制度の要件や届出方法を知るだけでなく、現在の社会保険実務の中で、固定的賃金の変動がない従業員の報酬急減をどのように把握するのか、その背景に両立支援のための就労調整がないかを誰が確認するのかという点まで整理しておくことが重要になると考えます。
なお、支払基礎日数や無勤務・無報酬となった場合、被保険者期間が短い場合、特例改定後の随時改定・定時決定等、細かな取扱いについても厚生労働省通知で示されています。
実際に対象者が生じた場合には、最新の公式資料をご確認ください。
【参考】
厚生労働省「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての健康保険法及び厚生年金保険法の標準報酬月額の保険者算定の特例について」
日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
日本年金機構「産前産後休業終了時報酬月額変更届の提出」
日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」
日本年金機構「標準報酬月額の特例改定の延長等に係るQ&A」
※本記事は2026年8月20日時点で公表されている厚生労働省・日本年金機構の資料をもとに作成しています。
2027年1月の制度開始までに追加の案内等が公表される可能性がありますので、実際の手続きにあたっては最新情報をご確認ください。
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